笹田かなえ句集『お味はいかが?』 

2015/04/06
Mon. 15:49

   またひとつ椿に咲いてくれました

椿に椿が咲くのは自明のことだ。では椿に何が咲くというのか。「咲いてくれた」とあるからには咲いてうれしい
もの。たった一字の助詞「に」を使うことでありきたりの出来事が見たことのない世界に変わってしまう。
読み手はその不可解な世界に無関心ではいられない。



   蛇いちご蛇になったら食べられますか
   紅花のあかくあかくと搾られて
   サルビアの蜜サルビアの口で吸う
   木の椅子の木の背もたれの木のくぼみ

一句の中に同じ言葉がいくつか入っている句が多い。
その言葉への思いというよりは、その物を慈しむあまり、そうなってしまうというような印象を受ける。
やさしさと愛情が17音からこぼれおちる。ぽたりぽたり。



   少しだけ濁ってやさし金魚鉢

そうそう、金魚鉢は少しくらい濁ってるほうがいいんだよね。
・・・・なんて思ったことない。
でも、家族や職場という小さな世界では何もかも見えないほうが幸せということも多い。
ってことで魚意、否、御意。



   サーカスがくるよさみしいひとがくるよ

喜劇の裏にぴったりと張り付いているものはいつの世も涙であり、サーカスの舞台上の笑顔の裏側に
あるものもまた然り、である。
この句に言いようのない痛みを感じるのは、わたしもいつのころからかサーカスが見れなくなったから。



   うさぎ抱くころしてしまいそうに抱く

「ころしてしまいそうに」に「ころしてしまわないように」という温かい気持ちと「ころしてみたい」・・・
とまでは思わなくても「このまま少し力を加えたら死ぬんだ」というヒヤリとした気持ちが混在する。
小さくて壊れやすい命を抱いたときのリアルな感情、誰もがいだいたことのあるはずの。




   不器用でのん気できれい薬指
   待ってと言って待ってもらってもどかしい
   すきだらけの手に溶けていくぼたん雪
   くちびるを切るかもしれぬ草の笛
   飛べるかもしれない秋の扇風機
   血の薄い家へと続く石の門
   適当にって言われた雨の匂いした
   なまざかななまあたたかく売れ残る
   オルガンに脂が浮いてくる深夜
   押し花のあっかんべェーと咲いている
   引き出しが乙女の段で引っかかる
   夕焼け小焼け誰がお空をころしたの
   紫の椅子抱かれたら抱き返す



かなえさんは水っぽい。体から水の音がする。そして雨の日が似合う。
かなえさんの句は透明だ。普段目には見えない深いところにある情念を詠んでもさらさらと流れていく。
雪解けの春の小川のように。



   「果物」と書くときちょっと手が濡れる    笹田かなえ









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コメント

陽子さん、こんばんは。
ブログをいつも楽しく拝見させていただいております。
このたびは、拙句集を取り上げてくださって、本当にありがとうございます。
 <雪解けの春の小川のように> とのお言葉、じんと胸に沁みました。
句集を出してから、すっかりのんびりしていましたが、
陽子さんのパキパキした文章を読ませていただいて、
心を入れ替えなければと、思わず頭を振りました(笑)
川柳界も少しずつ変わってきています。
その原動力になっているのは、陽子さんたちの世代だと思うのです。
これからも、刺激的な情報を発信し続けてください。

また、どこかでお会いできるのを楽しみにしています。

笹田かなえ #- | URL | 2015/04/07 22:49 * edit *

笹田かなえさま


かなえさん、こんばんは。
あとがきに「有夫恋」が川柳をはじめたきっかけと書いてはるのを
読んで、納得しました。
どおりで艶っぽいわけだ。水っぽいわけだ。
わたしなんて、どんなに逆立ちしても何も滴り落ちてきません。
振り回されてやっと鼻水が出てくるくらいかな~。チーーン。

ブログも小学生の作文かっていうような文章しか書けませんが、
少しでも川柳の愉しさが伝わればいいなあと思っています。

こちらこそ、またお会いできる日を楽しみにしています。

ようこ #- | URL | 2015/04/08 20:19 * edit *

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