上野勝比古句集『フロウ』 

2015/05/08
Fri. 15:02

勝比古さんは京都番傘に所属されている伝統川柳のお方です。伝統川柳とは無縁のわたしですが、
ふらすこてん句会に通うようになり、そこで勝比古さんとお会いしました。5年前に出された句集ですが、
今年増刷された(すごい!)ものをいただきました。まずは素敵な装丁にしばし見とれ(何色というのでしょうか)
触れ(ちょっとザラザラしている)ながら、昭和の二枚目俳優のような勝比古さんを思い浮かべながら
読みました。


   原爆の広場で鳩の豆を買う
   ためらいの傷に肌色のサビオ
   まな板の音でかぼちゃとすぐ判る
   古本屋よく考えて雑に置く
   市役所と匂いが違う村役場
   片方の傘はすぼめて先斗町
   ぴょんぴょんとたすき待つ子が跳ねている
   園長のエール赤勝て白も勝て
   乙女らは笛吹きながらでも笑う
   不揃いを売りにしている無農薬
   お口の恋人噛むだけ噛んで捨てられる
   狼は悪いと決めている童話



なるほどなあと思う。いわゆる「見つけ」というやつです。なんのひねりもてらいもありません。
わたしが作る川柳はどちらかと言えば、そこにないもの(つまりは嘘)を作り上げるという作業で、
まあ言ってしまえば詩集に「死臭」と刺繍してみようかねという感じ(どんな感じだ)なのです。
ひねり?てらい?思いっきりありますし。
勝比古さんの句のように、普段見ているものだけど見えていないものを見つけるというのは、無意識を意識
するということで、なかなかどうして大変そうである。ふと目にとまるものならすでに誰かが詠んでいるでしょうし。
で、自分はそういうことができないため、こうやって楽してスッキリ感だけ味わってホクホクしているのです。




   女房の横で枕を抱いて寝る
   飲まいでもええのが青汁飲んでいる
   出来る子は放っておいても良くできる
   声かけて子に睨まれる参観日
   相撲より日本語仕込むのが上手い
   挨拶にしては気になる長いハグ
   時給より高い綿菓子ねだられる
   嘘つかぬだけでこの頃ほめられる
   指揮棒で上手に客を眠らせる
   嬉しくはないことはない誕生日
   駅前で犬の帰りを待っている
   大柄の姉に寝押しをしてもらう


こちらは、読んだ後にふっと口元がゆるんでしまう句。日常に潜む皮肉の大名行列や~~。
あかん、もっとまじめに書こ。といってもこういう句に説明はいらないですよね。
ぼやきの中に寂寞たるものが少々混じっている句が個人的好み。




   薄皮のまま少年のきゅうり揉み
   雨の日の蠅虎(ハエトリグモ)は点である
   制服が来て元栓を開けて行く
   シャネル一瞬にして耳朶を削ぐ


ふらすこてんに投句されたもの。器用である。「わたしは伝統やから・・・」と言われる勝比古さんですが、
ここでは番傘の句では見えなかった感情が異質にあぶりだされ、読者に想像する愉しみを与えてくれる。
それは少年の冷やかさであり、雨の日の無気力な自分であり、気づかないうちに網羅されつくされた規制や
豊かさへの対価の怖さである。
目を凝らして探した無意識とは違う、言葉のイメージと作者の感覚が裏切り合う中で生まれた新しい世界
だろうと思う。




十四字詩なんていうものもある。


   懐紙でぬぐう少年の五指
   1・2の3で課長は死んだ
   思った程は誰も泣かない
   過去完了は少し後引く


おもしろい。余分なことを言わない潔さが勝比古さんに合っているような気がします。



悲観からは何も産まれない/すべては楽観から想像される/だから滑稽に見えても/流れに棹さしてみる/
無駄な抵抗かもしれないが/やってみる価値はある/流す 流れる 流される/どれも結構むつかしい/勝比古


勝比古さん、上手に流されておられると思います・・・・。




   また誰か進軍ラッパ吹いている     上野勝比古







  

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