飯田良祐句集『実朝の首』 

2015/02/16
Mon. 10:37

わたしは飯田良祐さんを知りません。
ただ、亡くなったあとに良祐さんについて書かれたものを読んだり、今でも句会のあとの飲み会で良祐さんの話を聞く
ことはあり、わたしにとって良祐さんは、いわば「伝説の人」なのでした。

句を読む時は作者にまつわる情報は排除して読むべきという意見があります。でもそんなことは不可能だと思って
読みました。ところが不思議なことに読み進めているうち作者が自ら命をたったという事実が頭から消えて一気に
読んでしまったのです。
そのくらい句に勢いがあり、惹きつけられる言葉の強さがあったのでした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・



   ほうれん草炒めがほしい餓鬼草紙
   水虫によく効くという妖精
   父はまだ前田のランチクラッカー
   カマボコ板も私有財産である
   アスパラベーコンはふとモジリアニったりして

深い意味があるのかな。「深い意味なんてないんでしょ」と思わされてるだけかもしれない。
良祐さんの句は体言止めが多い。わたしは苦手である。言い切ることに自信がないからだ。
それを良祐さんはいとも簡単に言い切れる人。
自信があるとかないとかではなく、読み手に媚びない、よりかからない川柳を書く人なのだと思う。



   親族の記帳のあとの磨りガラス

時間の経過とともに視点が静かにずらされていくショートムービーのような美しさ。
死者からの目線?磨りガラスの向こう側に彼岸はあるのかもしれない。



   母一人子一人で棲む腋の下
   殻つきのまま落下する私生児

緊張感のなかにもちゃんとユーモアを盛り込んでくる感性はもちろんのこと、それを昇華せしめる職人技よ。
哀しい。けど面白い。けどやっぱり哀しい。



   母死ねとうるさき月と酌み交わす
   ハハシネと打電 針おとすラフマニノフ

この句を読んで〈愛〉〈憎〉のどちらを感じるかと言えば、わたしは〈愛〉を感じる。
上五の強い措辞を打ち消す力をそれ以下の文言に託している。それは無意識下で行われたものなのではないかな。
日常生活では気づかなかった本当の思いに気づかせてくれるのが川柳であり、また気づいてしまった本当の思いが
書けないのもまた川柳なんだと思う。



   経済産業省へ実朝の首持参する
   人間宣言というなら金券ショップ
   中華味でよく冷えた愛国心

社会、権力、制度等に思うことはあるもののそのまなざしは冷静で、そこに笑いが加味されここちよい嫌味となって句に
表現される。



   茶の間から雪隠までの猫車
   猫町に二つの月と猫車

猫車シリーズ。こういうひとつの言葉で連作する場合、その掬い取ってきた言葉(この場合、猫車)は作者に
なにかを喚起させるものがあったにちがいない。それはそこに投影された自分、と思う。
土や石を運び泥のこびりついた猫車に自分の姿を見ている良祐さん、を見ている月とわたし。



   ビニール袋の中のカサカサの勃起

なぜ「勃起」という言葉を使ったのか。わざわざこんな意味性の強い言葉を使う必要はなかったはずである。
それゆえに「カサカサの勃起」は良祐さん自身であり、自身への嘲笑、侮蔑を強く感じる。



   ガニマタでポテトサラダが座る席
   男娼が大外刈りの串カツ屋
   稲刈りが始まる通天閣展望台


良祐さんはこれらの句を大衆演劇の芝居小屋があった大阪の新世界という街を思い浮かべながら、その時のシーンを
ただ素描しただけと自解する。
が、これはもうしっかり川柳である。はじめから世の中を見る目が川柳というフィルター付きであるならば、わたしもその
目が欲しい。
もっとも「川柳とはこうやって書くんやで」と遠回しにだけど言いたい良祐さんの思惑もちらちら見えないこともないの
だけど。



   庭のない少年からの速達便

逃げ場のない少年の叫びは届かなかったのか。



   終電まで続く死神とのアヤトリ

アヤトリを終わらせたのは誰なのか。


   
   永遠に割れない鏡の前の舞

苦しくとも舞い続けることはできなかったのか。


最後の3句は良祐さんが自死されたと知って読むからそういう読みになってしまっただけのことである。
きっと良祐さんはそんなつもりで書いたのではないと怒ってはることでしょう。



   迂回路にキュウピイさんの行きだおれ   飯田良祐




・・・・・・・・・・・・・・


実際に良祐さんとかかわった方たちにとって、良祐さんの句に向き合うことはさぞかしつらい作業だと思います。
良祐さんの人となりも川柳の何たるかも知らないわたしが好き勝手なことを書いて不愉快に思われた方が
いらっしゃっるやもしれません。
それでもこうやって句集にしていただき、飯田良祐という川柳作家がいたのだということ、またその川柳が
飯田良祐を知らないわたしたちの中に残っていくことはすばらしく価値のあることなのだと、強く、思いました。

                                                           おわり










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